
最近、ネットを眺めていて度々目にするのが、
コロナウイルスによって世界で深刻な食糧危機が引き起こされるかもしれない
といった噂です。
本当にコロナウイルスで食糧危機になってしまったら大変ですよね....。
今回は、我が国日本が本当に食糧危機に瀕してしまうのかについて考えてみます。
あくまでこれから書く内容はぼく自身の意見ですので、そのうえでお読みいただけると幸いです。
この噂の発端
そもそも、なぜこのようなことがささやかれるようになったのでしょうか?
この話の発端となったのが、相次ぐ農業大国での輸出制限です。
ロシア、インドはじめ、一部の穀物輸出国で穀物の輸出制限が行われつつあります。
この流れを警戒したWHOやWTOなどの国際機関が食糧危機に警鐘を鳴らしたことで、世界的な食糧不足に発展するのではないか、と言われるようになったのです。
また、2008年にもインドなどの輸出国によって輸出制限が行われた結果穀物危機が引き起こされました。これと同じ現象が起きてしまうのではないかという警戒もあるのでしょう。
では、実際にそのような状況になり得るのか、日本を例にとって話を進めていきます。
なぜ輸出制限をかけるのか
そもそも、インドなどの国はなぜ輸出制限をかけたのでしょうか?
インドやロシア、ベトナムなどの輸出国が今回輸出制限をかけたのは、自国における食料品の価格を守るためだといえます。
どういうことか、もう少し詳しく説明しますね。
インドやベトナムが特に顕著なのですが、これらの国では所得水準が低めです。こういった際に食糧を輸出してしまうと国内に供給される食糧は減っていき、自然と国内の食料価格が吊り上がっていってしまいます(価格裁定行為)。こうした際にもともと所得水準が低い国はその食糧価格上昇における打撃をもろに食らってしまいます。
日本など先進国は国民自体がもともとお金持ちなので、仮に食糧価格が上昇したとしても少し洋服を買ったり映画を見たりする出費を抑えれば食糧を購入することはできます。しかし、もともと貧しい国ではこれができないということです。
このような事態から国民を守るために、所得水準が低い国は事前に輸出制限をかけて国内の食糧価格の維持を図っているのです。
そもそも、今回輸出規制をかけた国の多くは食糧の多くを自国用に生産しており、輸出に回せるような余力を持っていません(インドの場合、生産量に占める輸出量の割合は2017年時点で全体の7%、ベトナムは14%ほど)。そのため、まずは自国民を優先する形として今回このような措置に踏み切ったものとみられます。
また、今回輸出制限をおこなったロシアについては、720万トンの輸出量を700万トンに減らすのみであり、そこまで世界に影響を及ぼすとはいいがたいです。
輸出制限をかけない国の特徴
では、逆に輸出制限をかけていない国の特徴を見てみましょう。
アメリカ、オーストラリア、ブラジルなどは世界でも有数の穀物生産国でありながら、今回輸出制限は設けませんでした。それはなぜでしょうか?
先ほどの輸出制限をかけた国とこれらの国との間で異なる点は、国民自体が裕福である点と、生産量の多くを輸出に回している点です。
国民自体が裕福であると、先ほど日本を例にして示したように多少食糧の物価が上がったとしても国民は家計をやりくりすることで食糧を購入することができます。
また、これらの国が生産量の多くを輸出しているのは(アメリカ57%(小麦)、オーストラリア69%(小麦)、ブラジル59%(大豆)等)、単純に食糧が国内で余っているからです。
農家の人たちからすれば、食糧であふれかえっている国内で低価格で売るよりも、高く売れる海外に売りさばくほうがお得ですよね。
政府も同じことを考えます。自国民は多少高くても買ってくれるため、国内の価格が国際水準を上回るギリギリまで輸出しようとするのです。
変に輸出を止めて国内に食糧があふれかえってしまったら、食糧の価格は暴落し農家はつぶれてしまいます。農家としても政府としてもこうはさせないはずです。
このような状況を鑑ると、今すぐに食糧危機が引き起こされるとは言えないといえるのではないでしょうか。
そもそも、警鐘を鳴らしているWTOですが、本気で危機感を持っているとは言えないです。
もしWTOが本気であるなら、WTO農業協定第12条を活用して輸出制限を敷いている国に対して交渉するよう輸入国に促すはずだからです。(そもそもこれ自体形骸化している感は否めませんが...)
結局日本で食糧危機は起きるの??
先ほども述べた通り、今回のコロナウイルスで日本において食糧危機が引き起こされる可能性はほぼないでしょう。なぜなら、日本人は所得水準が高く多少値上がりしても穀物を買ってくれるため、農家は優先的に食糧を輸出してくれるからです。
さらに、次のグラフを見てください。

今回話題にしているのは、このグラフのうちの輸入農水産物についてです。
しかし、このグラフで示されているように、私たちが普段食べているものの価格のうち輸入している作物の割合はたったの2%です。
つまり、仮に一か月の食費が2万円だとしてもそのうちに占める輸入作物の割合はたった400円だということです。実際、2008年の食糧危機の際も、日本国内においてはさほど問題にはされませんでした。(僕自身全く覚えていないです笑)
消費額の大部分は食品の加工や流通、外食によってかかっているのです。
では、近年で日本が食糧危機に瀕したことはあるのでしょうか?
それは東日本大震災ですね。
なぜこの際食料品が手に入りずらくなったのかというと、地震と津波によって、航路、陸路がシャットダウンしてしまったためです。
単純に、物流が途絶えてしまったことによる食糧危機です。
今回はコロナウイルスによって多くの産業が打撃を受けてはいるものの、今のところ物流は機能していますし、食糧の流通は問題なく機能しているものと思われます。生産量も十分に追いついています。
江藤農林水産大臣も、供給体制に問題はないとしており、緊急事態宣言下においても現状食糧が不足する可能性は低いと思います。
しかし、先ほどのグラフのうち外食産業などは大打撃を受けているため、日本において食の在り方が見直される契機になる可能性はあると思います。
食糧買い占めによる一時的な供給力の低下のリスクは依然として存在しているため、普段から備蓄を心がけておくといいのかもしれませんね。