![[コロナウイルス]現金10万円一律給付がはらむリスク](https://fxslash.com/wp-content/uploads/2020/04/b568c81e15995877cdeed4399e21e11d-scaled.jpg)
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、安倍総理大臣は公明党の山口代表から、さらなる経済対策として、所得制限を設けず国民1人当たり現金10万円を給付するよう要請を受け「方向性を持って検討する」と述べました。
NHKより引用
このニュースは、昨夜のNHKの記事です。国民一人一人に一律で10万円給付を検討するという内容ですね。
現金給付というのは、前々から話題に上がってはいました。実際に世界ではアメリカをはじめとして現金給付を行っている国は多くあります。しかし、現金給付には考慮しなければならない点があることは事実です。今回はその点についてお話していきたいと思います。
インフレリスク
まず、この給付される現金を、政府は(財務省)はどこから調達するかその財源はご存じでしょうか。
新型コロナウイルスの感染症拡大に伴う緊急経済対策で、政府が必要な財源として新たな借金となる赤字国債の発行を検討していることが21日、分かった。与野党から30兆円規模の経済対策を求める声が上がっており、経済対策を反映する2020年度補正予算の財源として活用する可能性がある。
共同通信より引用
この記事に書いてあるように、政府は新規で国債を発行することで財源を確保しています。政府が国債を発行してそれを民間銀行を通して日銀が新たに発行した紙幣を使って購入することで、お金を世の中に供給しているのです。要するに何が言いたいかというと、現金給付することになればこのように新しくお金を生み出して供給する必要があるということです。
これを踏まえたうえで押さえておかなけばならない点は、現金給付による将来的なインフレリスクです。
なぜ現金給付によってインフレが起きてしまうのでしょうか?その仕組みを簡単に説明していきたいと思います。
話を単純化するために、パンを例にしてみます。皆さんは、この世でパンが1万個しかない世界と、1億個ある世界では、パン自体の価値は同じだと思いますか?もちろん少ないほうが貴重ですよね。ですので1万個しかない世界のほうがパン1個自体の価値は高くなります。
では、パンを通貨に置き換えてみましょう。
通貨でも同じ現象が起きます。新しくお金を生み出して供給する必要があるので、今までより世の中に流通するお金の量が増えることになります。お金が世の中に出回れば出回るほど通貨の価値は下がるので、相対的に物の価値は上がりインフレにつながるわけです。
さらに、日本人は国民の性質上貯蓄志向が高いといわれています。このような経済対策は基本的に停滞した経済を回復させるために行われますので、もらったお金は消費しないと意味がありません。一律給付では必ずしも緊急には必要ではない人にまでお金は回るわけで、そのような人たちは現金を貯蓄に回すかもしれません(コロナのせいで不景気なのでむやみな支出は避けるのではないでしょうか)。こうなると、景気は良くならないのにお金の量だけ増えてインフレだけが進んでしまう深刻なスタグフレーション*の状態となってしまいます。最悪の事態としては、戦後日本のような預金封鎖や必要物資の配給制などが想定されます。
スタグフレーション=経済活動が停滞しているにもかかわらず、インフレーションが進む現象。
大辞林第3版
また、コロナウイルスによって現在世界経済は停滞していますから、生産・流通が大幅に止まっている以上物の供給は滞ります。さまざまな物が品薄状態となり、この状態も物価の上昇に拍車をかけます。
このように、現金給付をするとその分物価が上昇してしまう、ひいてはスタグフレーションのような最悪な状況におちいる可能性があるのです。
現金給付によるインフレを防ぐためには
では、現金給付によるインフレを防ぐためにはどうすればいいのでしょうか。
そのためには、政府は一度国民に給付したお金をもう一度回収するしかありません。
回収する方法はいろいろ考えられますね。確定申告時に回収、将来的な増税、国債を発行して国民に何らかの方法で買い取らせる、などが現実的なところです。
いずれにせよ近いうちに回収しなければインフレリスクはどんどん高まりますから、政府もなんらかの方法で回収することでしょう。
しかし、本当にスムーズに回収が可能でしょうか?コロナウイルスによる経済停滞が長引いてさらに一部の国民が困窮してしまったらどうしましょう。さらに給付や融資が必要になってしまいますね。次項ではこの点について説明していきます。
経済対策ではコロナウイルスは治らない
経済対策ではコロナウイルスは治らない。
これは当たり前の話ですがとても重要な点です。いくらお金を供給したところで、ワクチンや特効薬が完成しない限りはコロナウイルスは治りません。
どれだけお金を供給したところでそれは治療法の確立までの時間稼ぎにすぎません。そのため、どんな経済対策も治療法の確立の目途が立ってない以上、特に現金給付などの多額の財源が必要な大規模な経済対策は使いどころが非常に重要なわけです。政府も無限に財源を確保できるわけではないので。(正確に言うと理論上無限にお金を発行することはできますが、そんなことをしたら前述したとおり大規模なインフレは免れないでしょう。サイゼのマルゲリータピザに3万円や30万円を支払うような世界ですね。僕なら嫌です。)
つまり、今必要以上に現金をばらまくような行為は、コロナウイルスの治療法が確立されず将来的にさらに国民の生活が困窮した場合に対応できなくなります。本当は給付したお金を回収したい政府ですが、さらなる経済対策が必要となってしまうのです。
治療法確立の目途が立ってない以上、不測の事態に備えてなるべくお金は取っておかなければなりません。
ではなぜアメリカをはじめとした欧米諸国は大規模な経済対策を行えているのでしょうか。
それは日本とは異なり普段から緊急時のためにお金を取っておいたからでしょう。日本とアメリカでは経済規模は4倍ほど違いますが、中央銀行の保有国債残高はほぼ同じです。国債はお金の発行に必要なものですので、日本はすでにアメリカの4倍規模で世の中にお金を供給していたのです。アベノミクス3本の矢の一つである、質的・量的金融緩和と呼ばれるものですね。
平時からお金を供給していた日本は他国とは状況が違うんだということを押さえておきましょう。
まとめ
現金給付をもとめる国民の声は強いですが、ぼくは日本の場合は特に必要最低限以上の現金給付は慎重に検討すべきだと思っています。
現金給付が孕んでいるこのようなリスクを皆さんにお伝え出来たなら幸いです。