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[価格がマイナス!?]原油価格暴落!!その要因とは??

20日の原油先物相場は急落した。ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)では期近の5月物は前週末比55.90ドル安の1バレルマイナス37.63ドルで取引を終えた。原油先物価格がマイナスとなるのは史上初めて。新型コロナウイルスのまん延による経済活動の低下で原油在庫が積み上がっている。需給が一段と悪化するとの観測から売りが広がった。

日経新聞(4月21日付)より

今週マーケットを賑わせた大きなニュースの一つと言えば、この原油価格急落のニュースでしょう。

原油先物価格は史上初のマイナス価格となったとありますが、価格がマイナスってどういうこと!?って感じですよね。

今回は原油に特有の性質を解説しつつ、マイナス価格になってしまった要因、今後の経済に与える影響などを考察していけたらなと思います。

ではまず、マイナス価格になってしまった要因から説明していきたいと思います。

 

マイナス価格の仕組みと要因

価格がマイナスとはどのような状況でしょうか。

ふつう私たちの世界では価格というものはプラスの状態ですよね。当たり前です。¥100のものなら、買うためには¥100支払い、売った際には¥100収入が生まれます。

マイナス価格になると、これと逆のことが起こるのです。

価格が¥-100になってしまうと、買った際には¥100の収入が生まれ、売った際には¥100支払わなければなりません。実際に原油先物市場ではこの現象が起こってしまいました。

ではなぜこのような現象が起こってしまったのでしょうか。

コンタンゴとロールオーバー

原油には、それを保管しておくのに相応の費用が掛かります。これが今回非常に重要な点です。

原油は保管する際に様々な費用が掛かります。地上の貯蔵施設の運営にかかる費用や原油貯蔵用の洋上のタンカーを借りるのにかかるお金等です。

また、原油は長い間貯蔵しておくと揮発してしまうため、そもそも長期間の保管には向いていないという側面があります。

そのため、今回のように経済停滞で直近で原油の需要が落ち込むような状態になると、期先の限月の価格が高く、期中、期近と受け渡し日が近くなればなるほど価格が安くなってしまうという、コンタンゴ*と呼ばれる現象が発生するのです。

コンタンゴ(Contango):順鞘とも。金利面や保管面のかかるコストが、需給のひっ迫などから現物を保有しておく際に発生するメリットを上回る際に発生する現象。原油や穀物、ゴムなどは貴金属に比べて劣化しやすく保管が容易ではなく、コンタンゴが起こりやすいといわれる。⇔バックワーデーション(Backwardation)

下記で詳しく解説しますが、現在原油需要は大きく落ち込んでいるため今原油を手に入れても貯蔵コストがかかるばかりでメリットがありません。

しかし、期近の5月限(5月に原油の受け渡しを行う分)の締め日(原油の受け渡し日)は4月22日であったために、今日のうちにどうにかしないと原油が届いてしまいます。原油の受け取りを先延ばしにするためには期近の5月限から6月以降への乗り換え(ロールオーバーと呼びます)を行うしかありません。5月限をうっぱらってそれ以降の締め日のものを購入しなおすということです。お金を支払ってでもいいから5月限の分の受け取りだけは避けたい。この5月限のパニック売りが今回のような騒動に発展したのでしょう。

コロナによる経済停滞と戦略的備蓄

上でも書いた通り、現在はコロナウイルスによって世界的に経済が停滞しています。しかも、今回より深刻なのが、コロナウイルスがヒトの移動に大打撃を与えている点です。ウイルスの感染拡大防止のため、各国は入国制限をかけるなどし、ウイルスの拡散防止に努めています。これが原油需要に大打撃を与えました。

原油とは主に何に使われているかご存じでしょうか。

主な使用用途は以下の3通りです。

  1. 航空機、船舶、自動車などの動力源
  2. 工場や家庭などの熱源
  3. プラスチック製品や洗剤などの原料

そして、ヒトの移動の制限が、このうちの①に直接的な大打撃を与えたのです。さらに、工場の稼働力も落ちているので、②や③にも少なからず影響を与えていることは確かです。

このような原油需要の低下に押され、原油先物価格はみるみる下がっていきました。

そこでこの原油価格下落に乗じて中国やアメリカは3月ころから価格が安いうちに通常より多くの原油を買い占めておくという、戦略的な備蓄を行ってきました。

3月はこれによって一定の需要が生まれていたとみられますが、4月に入り米中ともに貯蔵タンクが満タンに近い状態となってしまい、もう戦略的備蓄すら行えない状況に陥ってしまったのだと思われます。

WTI原油受け渡し場所の立地

今回原油価格暴落を起こしたのはWTI原油先物市場です。これはアメリカで取引されている原油市場です。世界にはもう一つ、産油量が多い主要市場に北海ブレント先物市場というイギリスで取引されている原油先物市場があります。

今回はWTI先物市場では価格の暴落が起きた一方、ブレント市場ではここまでの下落は引き起こされませんでした。

これには原油の受け渡し場所の立地が関係しています。

WTIの場合、その受け渡し場所はオクラホマ州(内陸部)であるため、備蓄する際には地上での貯蔵が主です。地上の貯蔵に限界が来てしまった際でもタンカーでの洋上での貯蔵が可能ではありますが、今回のように価格が低いと、タンカーのレンタルコストのほかに海までの輸送コストが重くのしかかります。

一方北海ブレントの場合、受け渡し場所は海上の油田であるため、そのままタンカーでの貯蔵が可能です。タンカーのレンタルコストのみですので、そのまま貯蔵しておくことができるわけです。

このように北海ブレントは低コストで海上での貯蔵が可能であるために、WTIのような暴落は起こりませんでした。

OPEC+による協調減産交渉の決裂

通常であれば、このように原油価格が下落すると産油国各国は原油価格を維持するために、落ち込んでいる需要に合わせて供給力を落とすという、原油の減産を行います。

今回も、すでに2月末ごろからOPECに主要産油国であるロシアなどを加えたOPEC+によって減産に向けた交渉が行われてきました。

しかし、3月6日に行われたOPEC+会合でロシアがサウジなどからの減産の提案を拒絶したことで、減産交渉は決裂してしまったのです。

ロシアが減産を拒否した背景には、新コロによる経済停滞がいつまで続くのかの判断が現時点(3月当時)ではできない点や、プーチン氏の支持基盤である石油関連企業がそもそも減産に否定的な点、自国の財政収支を均衡させる原油価格の水準がサウジより低い点(サウジに比べ、自国経済が原油産業のみには依存していないため)などがあるといわれています。

もともとロシアとサウジはOPEC+におけるリーダー的存在であったため、ロシア側はサウジ相手に交渉を有利に進めたかったのでしょう。

しかし、この交渉決裂が裏目に出ます。

減産を提案していたサウジですが、交渉決裂により一転増産姿勢へと転じたのです。サウジはロシアに比べ、1バレル当たりの原油生産コストが低いといわれているため、減産に強気に出たのです。また、ロシアの欧州でのシェア拡大を阻止したい思惑もあったと思われます。

このように、需要の低下に対して供給が拡大していく状況になってしまったことも、原油価格下落に拍車をかけてしまいました。

4月に入りOPEC+は協調減産にこぎつけたものの、その量は需要の低下に比べ微々たるもので、あまり効果はなかったといえます。

今回の暴落が与える影響

ここからは、今回の原油価格暴落が今後の世界にどういった影響を与える可能性があるかについて考えてみます。

まず、懸念されるのは中東産油国のデフォルトリスクです。

中東には、サウジやクウェートなど、国の財政の大部分を原油によって賄っている国が多くあります。

原油価格がこのように低い水準が続けば、このような国が債務不履行(デフォルト)におちいる可能性は高まってくるでしょう。

また、このような国々の間で紛争が激化する可能性も考えられます。

その一方、日本をはじめ中国やEU各国など、原油輸入国にとって原油価格下落は追い風です。さまざまな産業で原油は必需品であるため、それにかかる調達コストが下がれば自然と経済には追い風となるでしょう。

しかし、日本企業の中でも、かねてから原油などのエネルギー資源の開発をしていた総合商社にはかなりの打撃が想定されます。

その中でも丸紅は3月時点で原油価格下落によって過去最大の1900億円相当の赤字を予想していました。

丸紅の場合油田開発の大半は北海ブレントやメキシコ湾におけるものですので、直接的な影響はないにせよ今回の下落によって少なからずさらなる痛手を負うのは確実でしょう。

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現在、コロナウイルスによる経済停滞がいつまで続くのか、具体的な見通しは立たないままです。

このような状況が続けば、6月限のロールオーバーでも同じような現象が発生する可能性は大いに考えられます。

今後も原油市場の動向からは目が離せませんね。

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