
金融や為替を学んでいると、日本円は安全資産、有事の円買い、といった言葉をよく目にします。
では、なぜ日本円はこのように世界の通貨の中で安全資産と位置づけられているのでしょうか。
今回は、その理由とコロナによってその概念に変化が生まれつつあるのではないか、という点についてお話していけたらなと思います。
通貨における安全資産とは?
安全通貨とは、相対的に保有するリスクが低いと見なされている通貨のことです。こうした通貨は、世界的規模で金融や経済が混乱するような危機が発生した時に買われる傾向があります。その意味で避難通貨とも言われます。英語ではセーフヘブン通貨(Safe-heaven Currency)と呼ばれ、代表的なものとしては円、スイスフラン、ドル、ユーロなどがあります。
http://www.fx-soken.co.jp/kawase/anzen-tuuka.html
このように、通貨における安全資産とは、世界規模で金融や経済の危機が発生したりその懸念が持ち上がった際に(リスクオとなった時に)より買われやすくなる通貨のことです。
引用部分でも記しているように、近年安全資産といえば米ドル、ユーロ、日本円、スイスフランと言われています。
ではなぜこれらの通貨が安全通貨と言われているのでしょうか??
安全通貨と言われる理由
まずは、政治的、経済的に安定している、ということがあげられます。
世界規模で金融危機や経済危機が懸念された時の資金の避難先となるわけですから、その国が政治的にも経済的にも安定していなければなりません。
特にこの点でいうと、米ドルはとても優位性が高いですね。
では、なぜ米ドル以外の3つの通貨も安全通貨と言われているのでしょうか?
そこで、次の図をご覧ください。

今年一月時点での、主要国の政策金利一覧です。(一月以降はコロナの影響で多くの国が軒並み利下げに転じてしまったために除いています)
ここで、日本円、ユーロ、スイスフランに注目してみましょう。この三通貨は、他通貨に比べて金利が低いことがわかります。
この点が非常に大切です。
もう少し詳しく説明していきます。
低金利と安全通貨の関係
低金利の通貨は、ファンディング通貨*と言ってキャリートレード*で資金を調達する際に主に用いられます。なんだかわけのわからない語句が出てきたので、順番に説明していきます。
用語キャリートレード:機関投資家・ヘッジファンド等の有力な資金調達・運用手法とされる取引で、金利の低い通貨で資金調達して、金利の高い通貨で運用して利ザヤを稼ぐ手法をいう。特に円で資金調達をおこなう場合を円キャリートレードという。 円キャリートレードは、機関投資家・ヘッジファンド等が低金利の円などの通貨で資金調達し、それをドルに換えて、金利の高い米国債等で運用し、金利差収入を獲得する。
野村證券ホームページより
たとえば、金利-0.1%の日本円を売って金利1.75%の米ドルを買っておいておくと、日々金利差の1.85%分だけ多く利益をあげることができます。さらには米ドルをアメリカの高金利な株や債券に変えておくと、さらに金利差を稼ぐことができますね。(これを利ザヤと言います)
当たり前ですが、キャリートレードを行う際にはなるべく金利の低い通貨を売りたいですよね。そうやって売られる通貨が日本円やユーロ、スイスフランとなるわけです。そしてこれらの通貨をファンディング通貨と呼ぶのです。
低金利通貨がこのような特徴を持っていることがわかったことろで、安全資産に話を戻します。
高金利な金融資産の特徴として、その分リスクが大きいという点が挙げられます。つまり、ハイリスクハイリターンなわけです。
では投資家たちがそのようなハイリスクな金融資産に投資するのはどのようなときでしょうか?
それは、リスクオン*の時です。
用語リスクオン:投資家がリスクを取って、リターン(収益)を追求しやすい相場状況を表した金融用語です。2008年のリーマン・ショック以降、金融用語として浸透してきました。例えば、欧米などの主要先進国の景気が良好で、かつ金融緩和環境の場合には、株式などに投資家の資金が向かいやすくなります。また、比較的リスクが高い新興国の株式や高金利通貨にも、ハイリターンを狙った資金が向かいます。対義語はリスクオフです。
SMBC日興証券ホームページより
つまり景気がよい(リスクオン)のときはハイリスクな資産に資金が入りやすいので、反対にいうと低金利な資産からは資金が流れやすい、ということができます。
そしてリスクオフの時にはその逆の現象が起こるので、低金利の通貨に資金が流れやすく(ようは買われやすく)なります。
これは、リスクオフの時に買われやすくなるという安全資産と定義と一致していますね。つまり、日本円やユーロ、スイスフランは低金利であったから安全資産と言われてきたのです。
金利差縮小で安全通貨の定義が変わる!?
コロナウイルスにより、世界的な金利差縮小が起きています。
先ほどの図の続きをお見せします。

コロナが本格化した三月以降、多くの国が利下げを行い、通貨の金利差は縮小傾向にあります。
安全通貨と呼ばれていた通貨の特徴であった金利の低さが失われているということです。
とくに、金利が高いうちからその安全性を評価されていた米ドルとの金利差縮小はとても大きな意味を持ちます。今までより一層米ドルの安全資産としての価値が高まっていくのではないでしょうか。
そして、日本円はじめ、ユーロやスイスフランなど、今まで安全資産と見なされていた通貨はその地位を失っていくのではないでしょうか。
まとめ
・日本円はじめ、安全通貨はその金利の低さから、リスクオン時に売られリスクオフ時に買われていた。
・しかし、コロナによる世界的な金利差縮小によってその地位は揺らぎつつある。
・今後は安全通貨は金利も低く政治的経済的にも世界でもっとも安定している米ドル一強になっていくのではないだろうか。
ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございました!ではまた。